私にとって「耳かき」は、特別な行為だ。
昔の話。
私は2人姉妹の長女。みっつ離れた妹はとっても甘えん坊で、なおかつ甘え上手だった。
それに対して私は、お人好しが過ぎた性格もあり、なんでも妹に譲っていた。それは、親に甘えるのもそうだった。甘え下手だったのかもしれないが、妹がお母さんにひっついているのを、少し離れてみているようなことが多かった。
そんな私が甘えられる時間、それが耳かきだった。
小さい頃、耳かきは両親どちらかがしてくれていた。綿棒、竹の耳かき、鉄の耳かき。好きなものを選んで耳かきをせがむ。仕方ないなぁと言いながら、親は膝枕をしてくれて、優しく丁寧に耳かきをしてくれた。
私はそんな耳かきの時間が大好きだった。危ないからという理由をつけて、妹を追い払って。膝枕をして、優しく優しく、私だけを見てくれる時間。それは、当時の私にとって貴重なものだった。
それ故に、耳かきをしょっちゅうせがんだ。1週間に1度か2度ペース。たびたび、耳くそないよ、と断られたり、短く切り上げられたりもした。私はそれが納得いかなくて、悶々としていたりしたものだった。
そんな耳かきの時間は、母が病気で倒れることによって失われてしまったが、それはまた別の話。
親に耳かきをされることはなくなった。が、私は1人で耳かきができるようになったので、こまめに自分で耳かきをした。それはもちろん、耳の中をきれいに保つため。けど、どこかで、寂しい何かを補うためにするときがある。今でもそう。自分で自分の頭を撫でるような、どことなく惨めなような。そんな感じ。
時は流れ。
彼氏は自分で耳かきができないらしい。親にいつもしてもらっているが、話を聞くと割と乱暴だ。耳の奥まで綿棒を突っ込まれて、限界のタップをしても問答無用らしい。
いつも泊まるホテルのアニメティには、綿棒が2本。耳かきしたげよっか?と幾度か誘ってみたものの、彼にとって耳かきは恐怖の対象。無理強いするほどでもないし、まあいつか気が向いたら、その時にしてあげようと思っていた。
ここ数ヶ月。
彼が耳かきに挑戦してみようかな、というので、嬉しくなって意気揚々と膝を貸した。
小さい頃に何度か、父の耳かきをしたことがあったが、父からは下手くそとの評価をもらっていた。痛かったら言ってね、怖かったら言ってね、と恐る恐る、彼の耳に綿棒を耳に入れた。
よくとれた。それはもう、すごくとれた。耳かきできて嬉しいし、実際耳がきれいになっていって気持ちいいし。彼も、痛くない怖くない、気持ちいいと喜んでくれて、なんだかこっちまで嬉しくなった。
最近、彼氏から、耳かきして、とせがんでくるようになった。私は嬉しくって、喜んで綿棒を取りに行く。耳がきれいでも別にいいんだ。足が痺れるなんてどうだっていいんだ。
喜んでくれるなら。気持ちいいって思ってくれるなら。そうやって、私に甘えてくれるなら。気のすむまで、いっぱいしてあげよう。いつかの私が、そうして欲しかったように。
耳かきは、愛情表現だ。って話。
Melog
日常と、ゲームと、隙あらば自分語り。
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