いつも通りの朝の話。

いつも通りの出勤、いつも通りの朝、いつも通りの時刻にバス停についた。
いつも通り1本前のバスにみんな乗って連れて行かれた後なので、いつも通りに先頭に立つ。10分そこらTwitterやらオフラインに保存したYouTube動画やらを眺めて暇を潰してるうちにバスが来て、いつも通り奥の席に座る。私の後ろの数人が乗り込んで、いつも通りにバスが走り出す。
でもその日はひとつだけ違った。バスが走り出した後、突然「ドン」と鈍い音がした。カナル型イヤホンのそこそこいいはずのノイズキャンセルをやすやすとすり抜けてきたからそこそこな大きい音のような。ちらっと音がしたバスの前方を見てみはするものの、まあ何も見えないので、誰かが重い荷物を勢いよく置いたんだろうと思って、またスマホに視線を落としたその時。
男の人か女の人かわからなかった。わああああ!って叫ぶ声がして、ドン、とおんなじ音がした。同じバス停から乗った乗客が、バスの壁を殴った音らしかった。信号待ちをしている運転手さんが、大丈夫ですか…?と恐る恐る後ろを見ながら声をかけたけど、返事はない。
すぐわかった。ああ、この人、限界なんだなって。
また壁を殴って、また小さく叫んだあと、そのひとは子供のように泣きじゃくり始めた。隠す余裕がないくらい、大きなしゃっくりをあげながら泣いていた。そうそう、人間って限界になると、信じられない程に退化するんだよなぁ。しんどいんだなぁ。
私が降りるバス停に着いたので、いつも通り降り口に向かう。さりげなく姿を見る、30いかないくらいのお姉さんだ。ごめんねお姉さん、私は何もできないし、仕事があるから。どうか職場のあるバス停で降りずに、今日ばかりは遠くに行ってぼーっとして、やんわり延命するんだよ。とか思いながら、何も見ないふりして、いつも通りバスを降りた。
私には何もできない。私にはあのお姉さんを救えない。声をかけたい気持ちだけはあったけど、私はその言葉に何の責任も持たないし持ちたくなかった。そうだ、いつか大人に教えてもらったっけな、「大人になるのは諦めることだ」って。

わたし、おとなになったんだなぁ。

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Melog

日常と、ゲームと、隙あらば自分語り。